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breweryvintage(醸造所の年代)とvintagebrewery(年代物の醸造所)について(ツカサ考)


ちょっと日本語訳について、ご意見がある方もいるかもしれないが、翻訳の下手さには目を瞑っていただきたい…。

醸造所の年代、というのは、その醸造所の歴史を象徴する「わかりやすい数値」である。たとえば、300年前の創業の醸造所、聞くと、私などは興味をそそられるし、それだけ事業が続いているという事だけで尊敬に値すると考えている。加えて、そこに(飲み手の勝手な思い込みだが)ロマンを感じずにはいられないのだが、実際に現場に足を運んでみたら、最新の設備を使ったビール製造をしていた。などという例はよくある。

この時の自分の正直な気持ちはこうだ。

「古い醸造所だ、って言っても伝統的な造りを踏襲しているとは限らないんだな」。こういった「自ら勝手に抱いた期待値を裏切れた」時の残念な気持ちは私自身、ビールを飲んでも払拭できなかったのだが、そもそもなぜ「勝手に期待値を高めてしまった」のか。これは、歴史ある醸造所=古い醸造方法、という認識で飲み手は飲んでおり、そこに現実との差異が生じている。

これは、―意外に知られていないのだが―、トラピストビールなどにも同様のことがあるようで、修道士が木の棒を持って製造をしているわけではなく、ほとんどの醸造所は最新鋭の機械を導入して製造している、ということを知らない方が多い。(私も実はそうだったが…)それを知ったからといって味わいが変わるわけではないが、やはり飲み手は、醸造所の歴史を大切にしているし、同様に「今」も大切にしている。

一方、年代物の醸造所、の方はどうだろうか?

醸造所の年代、ではなく「醸造設備や造り方」自体が年代物のため、ボトルや外部からの情報が分かり難いため、それ程期待(飲み手としての勝手な期待値)していなかったりする。ところが実際に足を運んでみたら「ウソだろ!」と思うような設備が現役で稼働していたりすると、「なぜそんなことを?」「いったいいつから?」と期待を大きく上回るため、興味が絶えない。

上記のことから言えるのは、飲み手が感じるロマンは、BREWERYVINTAGEではなくVINTAGEBREWERYではないか、ということ。
ワインの世界と異なり、工業化が進むビール業界においてヴィンテージの持つ意味合いは、後者ではないだろうか。
少なくとも、私自身(ツカサ)はそう考えている。

クラシックについて語りたい【第五回・最終回】

クラシックのスタイルとなっているドルトムンダーというビールスタイルだが、ビアスタイルについて、少し思うことを語りたい。

ビアスタイルとして「ドルトムンダー」=「エクスポート」というのがビール業界では一般的だが、そもそもこの語源について考えてみる。

ドルトムンダーとは、かつて炭鉱の街として栄えたドルトムントで飲まれていたビールを指しており、「ドルトムントのビール」という意味になっている。ビールの造り的に輸出に耐えうる造りなので、ビールの輸出が盛んになり始めて、「エクスポート」と表現されるようになったと想像できる。

とはいえ、ドルトムントで造られるビールならば基本的に「ドルトムンダー」なわけで、ドルトムントの街で主要なアイテムとして造られ、炭鉱の街の人たちに地域的に、そして文化的に飲まれていたビールが、結果的に「ドルトムンダー」というスタイルになる。

一方、「エクスポート」というビールのスタイルは「対輸出用ビール」ということになるので、長期輸送ありきで開発されている。つまり飲み手のニーズから生まれた、というより売り手のニーズで開発されたビール、とも言えるわけである。

結果的にドルトムントのビールはエクスポートとして「 ≅ ニアイコール(ほぼ一緒、同形)」だった為、ビアスタイルとして「ドルトムンダー≅ エクスポート」となっている。

翻って、ベアレン クラシックのスタイルは?と問われれば、私は(選択肢があり、伝わるのであれば)「ドルトムンダー」と答えたい。理由は、敢えて控えたい。

(この文中、既に上記に書いており、そこまで書くのも無粋と思うので。)

長く続いた、『「クラシック」について語りたい』は一旦ここで区切りをつけてたいが、まだ語りたいこともあるので、それは機会をみて書きたいと思う。

クラシックについて語りたい【第四回】

「クラシック」について語るときに、絶対にはずせないのが歴史の話だと思います。4大ラガーの歴史などを書きつづると大変な文量になってしまうので、ドルトムンダー中心の話にします。

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≪そもそも1900年台の輸出ビールって?≫

4大ラガービール、ウィーン、ボヘミア、ババリア、ドルトムントとあるが、この中で輸出が盛んだったのは、ウィーンラガー(赤褐色のモルトを使用)、ババリア(ミュンヘンエクスポート、とも呼ばれ、だいぶ甘め)、そしてドルトムンダーの3つ。

中でもドルトムンダーは、ホップが結構多めに使用しているわりに、麦芽の使用量も多く、他のババリア、ウィーンに比べて味わい的に多くの人に好まれたらしい。

当然ながら、ドルトムントは石炭と炭鉱の街。労働者階級からも絶大な人気で地元で飲まれ、ドルトムント以外の土地でも人気となっていったのである。

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≪線路が先か、醸造所が先か≫

1901年のドルトムントの地図を見ると、線路沿いに醸造所が立ち並んでいてドルトムントの中央駅付近だけでも8か所もある。

どちらが先か、というと鉄道が先で石炭、鉄鋼を運んでいたところに醸造所が立ち始めていった、というの有力(というか間違いない)。

ドルトムントでは、1900年前後に設立された醸造所が多いようだが、それ以前からの歴史のある醸造所(南ドイツのフランケン地方のような300年以上の歴史があるようなところ)は、私が知る限りは無いように思う。

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≪ドルトムダーという呼び名について(ツカサが知っておいたほうがいいと思う事)≫

何度か書いてきたが、かつて輸出が盛んだったドルトムントのビールは、「エキスポート」または「ドルトムンダー」と呼ばれ、ラガースタイルのビール。

どちらで呼んでも間違いはないビールだが、ドルトムンダーと呼ぶときには注意が必要になる。

というのも、「ドルトムンダー」という言葉には、2つの意味があり、

1)ドルトムントの人、もの

2)ドルトムントのビール

がある。

私は、酒類業界でプロとして仕事をしているので、業界内での言葉としては、2)として話をしているが、しかし社会一般的には、1)のほうが多く使用されていることだろう。

そういったことを踏まえたうえで、ビールのスタイルを語る際には少し気を配る必要があるのである。

たとえば、

「ラガービールのカテゴリにはエキスポートがあります。」というのは

問題ないが、

「ピルスナーのカテゴリにはドルトムンダーがあります。」

というのは絶対に言ってはいけない。(チェコのピルゼン地方に、ドイツのドルトムント市民は属している、ということになるので、国際問題になりかねない。)

最近は、インターネット上の翻訳の性能が高くなっているので、たとえ日本語の記事であっても間違いの無いように注意が必要である。

ベアレンクラシックを飲むときに、覚えておくと、チョットした話題になっるかもしれない。

クラシックについて語りたい【第三回】

「クラシックの液体についての話をしたい。」

そう聞くと、苦味とか色の話か?と想像されると思う。

その通りなのだが・・・。

(前回からの続き)

ベアレンクラシックはIBU23、という苦味値にも関わらず、それ程苦くはない。

その大きな原因は、麦芽を必要以上に多く使用している、からである。

「必要以上」という表現は大げさかもしれないが、今の時代においては「必要以上」であることに変わりはない。

ここで、そもそもベアレンクラシックの原型となっている「ドルトムンダー」というビールのスタイルに少し触れたい。

「ドルトムンダー」というビールのスタイルは別名「エクスポート」とも呼ばれ、かつてドイツの都市ドルトムントで造られていたビールのことを指す。エクスポートとばれるだけあり、エキス分が高く、長期輸送にも耐えられるラガービールで、当時は炭鉱で働く人たちに広く愛されていたビールである。

流通が革命的に進化を遂げた現在において、わざわざエキス分が高くなくても長期輸送も充分に可能なわけだが、ベアレン醸造所では、(少々ロマンチックな言い方をすれば)1900年頃のレシピを100年前から引き継がれている醸造設備で再現している。

つまり、「必要以上」に麦芽を贅沢に使用しているのである。そのためホップの量が少し多めだが苦くなく、むしろ麦芽の深いコクと甘みを感じるのである。

ここで注目したいのは、「麦芽100%」という日本の酒税法上のマジックである。同じ「麦芽100%」でも麦芽の使用量は誰も分からない。麦芽の「使用比率」は麦芽の「使用量」ではないので、酒税法上、同じ表示の「麦芽100%」であっても違いは飲んでみないと分からい。

たどり着くのは、

「知ってもらうには飲んでもらうしか無い」

という真理。

そこで、IBUの話に戻るのだが、苦味の感じ方は麦芽の甘み、香り、ホップのニュアンス(アロマホップなのか、など)でだいぶ左右される。

ベアレンのクラシックに当てはめて紹介するには、IBUの情報や「麦芽100%」といった画一的な表現だけだと魅力を伝えきれない、ということになる。

乱暴な言い方をするなら、飲んでもらえば、あえて私が稚拙な表現で力説する必要はない、という事になる。理想としては、、、飲みながら歴史や文化、造り手の想いを少しでも思い浮かべてもらえると嬉しい限りである。

つづく…

クラシックについて語りたい【第二回】

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新年明けましておめでとうございます。
今年もツカサのコラム(仮)をよろしくお願いいたします。
不定期でしたが、毎週木曜日更新を予定して執筆します。
本年もよろしくお願いいたします。
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「クラシックの液体についての話をしたい。」

そう聞くと、苦味とか色の話か?と想像されると思う。

その通りなのだが・・・。

突然だが、IBUというのをご存知だろうか。

ビール業界において、IBUとは国際的な苦味の単位を表しており、International Bitterness Unitsを略したものである。つまり国際苦味単位なのだが、最近のクラフトビールブームにより、このIBUを表記する飲食店が増えてきた。

(無論、そういった会社、飲食店、お客様を批判するつもりは無いが)ベアレン醸造所では聞かれない限り、あまりIBUについて語ることは無い。IBU表現に対して消極的な姿勢ともいえる。

企業秘密なのか?と問われれば、そういうことでもないのでお答えするのだが、なぜ消極的なのか?という事について語りたい。

たとえば、ベアレンクラシックのIBUは23。

IBUという単位は、苦味の基になっているホップの質量、アルファ酸、麦汁の体積などで算出されるわけだが、大手のラガービールのIBUが15、16程度、と言われているので、クラシックは「苦い」部類になる。

これは一つの指標になるわけだが、人間の味覚を数値化しているものではない、ということが重要になってくる。

つまり、「苦味の基を使っている量」を数値化しているわけで、感じる味覚とイコールでは無いということになる。

このIBU23の「苦い」部類に入るベアレンクラシックは、――飲んだことのある方ならご存知だと思うが――苦くない。少なくとも、大手4社のラガービールより、甘さすら感じるではないだろうか。

ここで特筆しておきたいのは、麦芽の使用量になる。

この話の続きは次回に。

(続く)

オンリーファーストウォートについて(後篇)

一番麦汁のみを使用し、麦汁のうまみも活かしつつ、ホップのニュアンスを引き出すビールとして仕込んでいる、「オンリーファーストウォート」

実は、今年使用しているホップは「IBUKI」という国産ホップである。

このIBUKIだが、岩手県遠野市で作られるホップで、国内では最大級のホップ産地で安定的に育てられているホップと言える。某大手メーカーが契約栽培していたホップだが、今年から一般販売を開始。地元のホップを使用できる、ということで今回のビールに使うことにした。

やはり、地元岩手で育てられているホップを使えるようになる、というのは感慨深いものがある。

製造チームではこのホップの特徴を活かすために、アロマホップとしてふんだんに使用。(香りづけに使っているという意味)

ちなみに、ビタリング(苦味づけ)のホップは、ドイツのハラタウ地方で2016年5月に新しくリリースされた新品種を使っている。ドイツのホップ生産の約8割を占めるハラタウ地方だが、クラフトビール市場のニーズに合わせた品種を育てはじめている。

そういった視点で見ると、変わらない味わいを伝え続ける「ベアレンクラシック」に対して、変化していくホップの特徴を活かす「オンリーファーストウォート」とも言えるかもしれない。

繊細で違いが分かり難く「ラガービールでしょ?」と十把一絡げにされがちだが、飲み比べるとその特徴ははっきりと感じられる。そんなラガービールの魅力も、このオンリーファーストウォートから感じ取ってもらえると嬉しく思う。

オンリーファーストウォートについて(前篇)

ファーストウォート、と聞いても全く見当がつかないと思う。そもそもビール醸造に関わらない限り、触れることのないワードだが、直訳すると「一番麦汁」ということになる。

この話になると、「では二番麦汁は?」という話になるので、この話も含めて書き綴りたい。

麦汁を摂る場合、醸造工程では煮沸(といっても沸騰温度はまでは上昇させないよ)がある。

要するに、麦汁を煮込んで汁を摂るわけだが、—ザックリ表現すると—煮込んだ汁をザル※で濾して汁を摂る。

1回目濾されて出てくるのが一番麦汁。

※現場で使用するのは濾過釜です。

ここでは、結構濃い麦汁が摂れるわけだが、それでもまだザルに残った麦芽には成分がたっぷり含まれた麦汁が残っている。これを余すことなく摂るためにお湯をかけて、濾しだす。これが二番麦汁。

始めに断りたいのは、一番が偉くて、二番はダメ、というわけではない。

二番麦汁には、タンニン分など含まれており、味わいに複雑さを加えてくれる。(当然、いっぱいお湯をかけると薄くなるので、それでは全体が薄くなるので加減が大切)

基本的に、ベアレンでは伝統的なレシピを尊重して作るので一番麦汁も二番麦汁も使用しているが、このオンリーファーストウォートだけは、一番麦汁を使用しピルスナーとして仕上げたビールにしている。

陸上に例えるなら、トラックを走る10000M競技がオンリーファーストウォートで、山を100マイル(160㎞)駆け抜けるウルトラトレイルのようなものがベアレンクラシック、といった感じだろうか。

(余計、ややこしいかも)

伝統的な製法で、一番麦汁だけを使用したピルスナー。

麦汁のうまみも活かしつつ、ホップのニュアンスを引き出すビールとして仕込んでいる。

後編は、使用しているホップについて語りたい。(続く)

クラシックについて語りたい【第一回】

世の中にある、「クラシック」と名のつく商品にはいったいどういう想いが込められているのか、たいした想像もしたことがないが、ベアレンの「クラシック」という名前に込められた想いをぜひ知って頂きたいと思い、ベアレン「クラシック」について、稚拙な表現ながら、語りたいと思う。

ベアレン醸造所の醸造設備をご存知の方も、そうでない方にも改めてお伝えしたいことの一つに、「100年以上前の醸造設備を使っている」ということがある。

おそらく日本で唯一無二の醸造設備、そしてそれを使いこなすための技術と経験を持ち合わせたマイスターがベアレン醸造所でビールを造っている。

(「マイスター(Meister)」はドイツの資格です。適当に使える肩書ではありません。「ブルワー」でも「職人」でもありません。)

そんな醸造設備を使って造るビール。

いったい何をスタンダードにするのか?

そもそも、私達ベアレン醸造所のビールは、1900年前半に情熱を注ぎ続けたビール職人達、醸造機器職人(金属加工職人)たちの延長線上に成り立っている。

1900年当時、ドイツでビール業界を牽引していた都市にドルトムントがある。

この都市では、輸出用にエキス分の高いラガービールを造っていた。

そして陸路(鉄道)、海路を通じて、その高品質なビールを発信し続けていたのが

濃厚なラガービール「ドルトムンダー」。

※参考までに2006年に私がドルトムントの醸造博物館で見てきた内容をご覧ください
http://baeren-sales.seesaa.net/category/7853299-1.html

かつて世界4大ラガービールと呼ばれた「ドルトムンダー」だが、今や当時の味わいを造りつづけている醸造所はあるのだろうか?

「クラシック」という名前。

これは直訳すれば「古典」という表現だが、芸術の世界では「名作」という意味合いで使用することが多い。

まさに、職人たちが造り続けてきたラガービールの名作を

100年前の醸造設備で再現する。それがベアレン「クラシック」と言える。

ベアレン醸造所が想いをこめて、創業当時からずっと造りつづけている「クラシック」を(私としては、少なくともクラシックだけは)飲んでもらえたら本当にうれしい。

そして、このブログのストーリーを語っていただけたらクラシックの味わいもまた少し違ったものになると思う。

ウルズスについて(その3)

ウルズスは私にとって、非常に思い出深いアイテムなので、連載でお送りしたい。

ウルズスのラベルについて
ウルズスといえば、冬のイメージ。ウィンタービールで売り出した、初期のウルズスは2点ラベル⇒1点ラベル、と変更、そのためラベルにも少し工夫を施した。冬限定、を連想するカラーは、やはり赤緑のクリスマスカラーではないだろうか。ベアレン醸造所で2アイテム目になる限定ビールにして初めて「赤」を取り入れたラベルと記憶している。そして、冬を連想させる雪をラベルの上に積もらせた。シマダの「ちょっと遊びが欲しいよね」という発想からだったのだが、実は「細かすぎる遊び」があったことに、いったい何人の人が気が付いただろうか。

まずは当時のラベルを見ていただきたい。

アーチの上に雪が積もっている。
これはウルズスのラベルにだけ、こういった「遊び」があったのだが、よく見ると、レンガにも積もっている。相当、デザイナーを困らせたと思うのだが、そこにも遊びを入れたい、という当時の想いがあった。(気づいた人がいたかどうかは別だが)

いま思うと、気づくか気づかないかの「10%のこだわり」が当時からはじまったと思う。ベアレンのラベルには、色々なエピソードがある。興味がある方は、工場にいらした際に、この扉を開いてほしい。(工場の2階にあります)答えは、この扉の中に書いている。工場に来たときの楽しみにしてもらえると嬉しい。

ウルズスについて(その2)

(ラベルの製造日が2003年11月12日、もちろん中身入り。2017年11月28日撮影)

ウルズスは私にとって、非常に思い出深いアイテムなので、連載でお送りしたい。

【ウルズスの商品開発について】

2003年11月に初めて発売となったウルズス。

創業年のこの年、ウィンタービールを限定販売しよう、といいうことになっていたのだが、裏ではもう一つチャレンジがあった。

当時、創業1年目で非常に苦しい時期だったな、とたまに振り返ることがある。コピー用紙は裏紙を使用する、という暗黙のルールができたのもこの当時だが、配達した段ボールを再利用したり、販促パネル作成を自分たちでやったり(これは今もやっているけど)ととにかく考えられることを実行にうつしていた。色々と考えられる中で、思い切ったことをしたな、と思うのはウルズスのラベルで、今では普通になったが、実は『一枚ラベル』になったのはこのウルズスからである。

当時、ビール(に限らず酒類全般)のラベルは、表ラベル、裏ラベル、と2種類用意して、表には商品名、ブランド名など表示。裏ラベルには、製造年月日、原材料などいわゆる「酒税法上必要な表記」を書いているものが多かった。ビールを年間100万本生産するとして、ラベルが2枚から1枚に変更になると、それだけでコストが単純に1/2になる。(本当はそこまで減らないけど、話は簡単にしておく)仮に20円だったものが10円になると、2,000万円⇒1,000万円となり、1,000万円のコストダウンになるのだ。当時、木村と嶌田が「1枚でも全部表示できるな」「コストダウンになるし、いけるな」と話し合い、即決で進んだ。

しかし…

「それじゃ、ツカサ、ラベル貼り頼むね。」 当時ラベル貼りまでやっていたわけだが、簡単にできるはずのラベルがうまく貼れない。ラベラーという「ラベル貼り専用機械」を通じて瓶ビールにラベルが貼られるのだが、どうやっても、製造年月日の印字が枠に収まらない。

(まさか!?)

そう思って、最大限値まで印字位置を調整するも、枠に収まらない。どうやっても上手くいかない。限界までラベルの調整位置を伸ばしても、枠に印字が収まらない。

(最大値まで伸ばしているのに…無理じゃん!)

全身から血の気が引いた。コストダウンのはずが、すべて無駄になるんじゃないか?ラベルは変わらない。機械も変わらない。人力でいちいち1本ずつラベルを貼っていたら何時までかかるか分からない。どうしようもなく、追い込まれたが、しばらく考えていて一つのアイディアが舞い降りた。

「あ!ラベルの調整位置の最大値を超えればいいんじゃね?」

今思うと、自由すぎる発想だったな、と思うのだが、機械のアームの部品の可動範囲を伸ばすように勝手に手を加えて調整。故障したら、保障対象外だろうな、ということは後になって気づくのだが…。

現在は、すべてのラベルが「1枚ラベル」。そして、当時のラベラーもリニューアルされて最新式になっているので、ビクビクするようなことも無い。冬、ウルズスの時期になると思いだされる、思い出の一つである。